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「この前、会ったのよ。お墓でね」
「何しに?」
「百合香に会いによ」
「何で?」
「知らないわよ、そんな事。それで翔くんの事もどうしてんだって聞いてきたから」
「は?」
今更かよ。と思い、馬鹿らしい笑みが漏れ、短くなったタバコをすり潰す。
そして喉を潤すために、珈琲を一口含んだ。
「まぁ、私に聞かれても困るって言ったけど」
「…どんな奴?」
「んー…一言で言うと硬派で端正な人。百合香が惚れるのも無理ないと思うけど」
「へー…」
「若い頃と変わらず、かなりの男前だった。…今のあなたに似てる」
「あっそ。別に聞きたくもねーわ」
「てか自分から聞いてきたんでしょ?それを私が答えただけじゃない」
「別に会いたくもねーし」
「だから言ったわよ。私からちゃんと″会わないでほしい″って」
「分かってんね、俺の気持ち」
「違う。翔くんの気持ちじゃなくて、百合香の気持ちね」
「あー…そっち?」
「百合香だって喜んでないでしょ?今更来られてもね。女作って出て行ったんだから」
「あー…」
やっぱり。
離婚した理由を俺から聞く事も、お袋から言ってくる事もなかった。
だけど、なんとなくそうだろなって言う実感はあったから。
「だからさ、翔くんにはそー言う大人にはなってほしくないわ」
「え、俺?」
「そうよ。好きな人にはちゃんと最後まで愛してあげてよ。じゃなきゃ百合香が悲しむよ。そんな男になって!ってね」
「…え、てか俺、今説教されてんの?説教好きじゃねーんだけど」
「説教を好む人なんているの?」
「さぁ…」
「てかこれは説教じゃないじゃん。当たり前の事話してるの」
「当たり前ねぇ…」
もう一度タバコの箱を掴み、そこから新しいタバコを咥える。
本当の母親の様に言ってくる沙世さんに、思わず呆れの笑みが零れた。