Domain

「この前、会ったのよ。お墓でね」

「何しに?」

「百合香に会いによ」

「何で?」

「知らないわよ、そんな事。それで翔くんの事もどうしてんだって聞いてきたから」

「は?」


今更かよ。と思い、馬鹿らしい笑みが漏れ、短くなったタバコをすり潰す。

そして喉を潤すために、珈琲を一口含んだ。


「まぁ、私に聞かれても困るって言ったけど」

「…どんな奴?」

「んー…一言で言うと硬派で端正な人。百合香が惚れるのも無理ないと思うけど」

「へー…」

「若い頃と変わらず、かなりの男前だった。…今のあなたに似てる」

「あっそ。別に聞きたくもねーわ」

「てか自分から聞いてきたんでしょ?それを私が答えただけじゃない」

「別に会いたくもねーし」

「だから言ったわよ。私からちゃんと″会わないでほしい″って」

「分かってんね、俺の気持ち」

「違う。翔くんの気持ちじゃなくて、百合香の気持ちね」

「あー…そっち?」

「百合香だって喜んでないでしょ?今更来られてもね。女作って出て行ったんだから」

「あー…」


やっぱり。

離婚した理由を俺から聞く事も、お袋から言ってくる事もなかった。

だけど、なんとなくそうだろなって言う実感はあったから。


「だからさ、翔くんにはそー言う大人にはなってほしくないわ」

「え、俺?」

「そうよ。好きな人にはちゃんと最後まで愛してあげてよ。じゃなきゃ百合香が悲しむよ。そんな男になって!ってね」

「…え、てか俺、今説教されてんの?説教好きじゃねーんだけど」

「説教を好む人なんているの?」

「さぁ…」

「てかこれは説教じゃないじゃん。当たり前の事話してるの」

「当たり前ねぇ…」


もう一度タバコの箱を掴み、そこから新しいタバコを咥える。

本当の母親の様に言ってくる沙世さんに、思わず呆れの笑みが零れた。

< 120 / 343 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop