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「ねぇ、ご飯はちゃんと食べてるの?」


今度は飯の心配かよ。と思いつつ、「まぁ…」と小さく呟く。


「今、なんか作ろうか?」

「いらね」

「ビールでお腹膨らませてどーするの?そうじゃなくても身体悪いのに」

「別に悪くねーけど」

「薬飲んでるんだから悪いでしょ?」

「って言うか、沙世さんっていつからお節介になったわけ?」

「お節介って言い方しないでよ。百合香が居ても、そうだと思うけど」

「どうだかね。って言うか、俺じゃなくてユカの心配しろよ」


ため息交じりでそう言って、俺は灰皿にタバコを打ち付ける。

ユカと言うのは沙世さんの娘で、俺より5歳も上。

親に似て、アイツもよく俺に説教してたっけ。


お袋が亡くなった時、″最低…″って、そう言われたことを思い出す。


「あー…あの子ね。結婚したのよ」

「えっ、いつ?」

「今月で10ヶ月になるかな。式は海外でしたのよ。ま、披露宴はこっちで友達だけでしてたけど」

「言ってくれてもいいのに」

「あら。翔くんも参加したかった?」

「いや。それはいーけど…」

「だって翔くんなかなか来ないし。あー…友達と居る所とか、綺麗なお姉さんと抱き合ってる時に、″母です″って現れてもよかったの?」


クッと口角を上げて微笑む沙世さんに顔を顰める。


「冗談、キツ過ぎ…」

「別に冗談言ってるつもりないんだけどね。それに電話で言う事でもなかったしさ、会った時でいいやって思って」

「知ってたら、みかんジュース1年分祝いにあげたのに」

「え、みかんジュース?」

「だって、アイツ好きだったろ」


何かと言うと、みかん、みかんと言ってた記憶がある。

思い出したかの様に笑うと、沙世さんは「あ、そうだ」そう言って、傍にあった携帯を掴んだ。
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