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「いや、いらねぇわ。帰って寝る。仕事だし」
「えぇっ!?あんたまだやってたの?トビの仕事…」
沙世さんは、声のトーンを更に上げ、目を見開いたまま俺を凝視した。
「あぁ」
「信じらんないっ!何で辞めないの?」
「なんでって俺、この先ずっとホストで食って行く気ねーし」
「その気持ちまだ変わってないんだ。なんか翔くんらしいね。そういうとこ百合香に似てるわ」
「……」
「ま、それが正しい道よね」
「てか、この道に進んだのも沙世さんの影響だし」
「えっ、私だったの?」
「まぁ…あの時の俺は金必要だったし」
「だから私が面倒みるって言ったじゃない。生活は出来てるの?…って、NO1なんだから余裕か」
クスクス笑みを漏らす沙世さんから視線を外し、俺は立ち上がる。
軽く伸びをした俺に、「どうして帰るの?」グラスを片付ける沙世さんに再び視線を送った。
「車で来たけど、運転できそうにねーからタクで」
「いつも車で来てるの?」
「いや、タクシー…今日はちょっと訳ありで」
「ふーん…、じゃあ私も帰るから送るわよ」
「いいんすか?」
「いいわよ」
鍵を手にした沙世さんと俺は、店を後にする。
飲食街から一度抜け、ネオン街に入る。
店が閉まってる深夜の街にはまだ人が溢れている。
その場で眠ってるサラリーマンやら、騒ぐ若者。
そんな中、丁度、店の前を過ぎ去った時、「…あれ?楓?」俺の呼ぶ声で振り返った。