Domain
休憩時間、俺は一人でベンチに寝転がって、空を仰いだ。
その曇りかかった空を遮ろうと、腕で瞼を隠す。
多分、このまま寝落ちする…と思った時、不意に過った美咲に、俺はポケットに手を伸ばした。
携帯の画面をスクロールし、美咲の番号を呼び出す。
そして躊躇う事なく、発信音を鳴らし耳にあてた。
「…はい」
どれくらい待ったのかも分かんなかった。
小さく呟く美咲に、「みぃちゃん?」と呼びかける。
「うん。どうしたの?」
「昨日は送れなくてごめん…」
寝た美咲を放置して仕事に行った俺。
その事を謝るだけなのに、何故かこいつの声が自棄に聞きたかった。
俺が俺じゃないように…
声が聞きたいって思うほどの女なんて今までなかったのに。
どうしたんだろう、俺。
「別にいいけど」
「今、何してんの?」
「学校の屋上にいる」
「サボりかよ、」
「違う。昼休み中。そっちは?」
「うーん…ベンチで日向ぼっこ」
「は?意味わかんない。曇ってんだけど」
クスクス聞こえてくる美咲の声に次第に俺の顔にも笑みが漏れる。
やっぱ甲高い声でギャーギャー騒がれるよりかは、居心地がいい。
「あ、つか金置いてってんのに、使ってねーだろ」
思い出したかのように俺が声を出すと、
「なんか雲行き怪しいよね…」
なんて話を逸らすもんだから、俺も同じく閉じていた目を開けた。