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「沙世さんから聞いた。俺の父親が来たんだって？」

「……」


ってか、父親でも何でもねーけど、そんな奴。


「悪いけど、俺は会う気すら全くねーから」

「……」

「それだけはお袋に言いたかった。それに…俺は一人でも寂しくねーから。だから心配すんなよ」


寂しかったのは、ずっとお袋だろ？

今でも、そう思ってんじゃねーの？


「…でも。まだ俺、そっちに…お袋の所に行けねーわ。当たり前だけど」

「……」


そう言って、フッと息を切らして立ち上がる。

ユラユラ揺れて流れていく線香の煙を見ながら空を仰ぐ。


死にたいから病院に行ってなかったんじゃない。

忙しくて忙しくて、なかなか行けなかっただけ。


そう思うと、今の俺と同じく、お袋もこんなんだったんだな、と思った。

同じ症状じゃないにしろ、″あなたに死なれちゃ困るのよ″そう言った沙世さんの言葉が浮かぶ。


…ってか、死なねーし、まだまだ。


「…また、来るから。顔見せに」


スッと墓に背を向けて歩き出した。

過去なんか思い出したくもない。

でも、思い出さない限り、お袋を思い出すことはないだろう。


俺がなにもしなかった所為か、沙世さんがすべてしてくれた事。

そんな沙世さんの流した滴を思い出し、その後、病院へ向かった。