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「なんか頭ん中であの人の顔が出てきて、上手く喋れねーんだけど」


敢えて、母親ともお袋とも言わない。

そして思わず苦笑いがまた漏れる。

ま、沙世さんが来ないだけまだマシ。


「じゃあちょっと喉冷やしちゃってよ」


シャンパンのボトルを次々開けていき、盛り上がる女達とどれくらい居たのだろうか。

いろんな席を回りながら、まぁ時間にすると2時間もたたないくらい。沙世さんの話と他愛ない会話。

暫くすると次第に盛り上がってくる他の席の掛け声。

何気に視線を向けた先には、ルイがボトルを咥えている姿が目に映り俺はアキ達にその場を任せて、次の席へと回った。


「…久しぶり。元気してた?」

「まぁ…ね、」


常連客の女の隣に腰を下ろすと、女は気分が乗らないのか小さく呟き、俺は顏を覗き込んだ。


「どした?全然元気じゃなくね?」

「寂しい」

「え、寂しいって?」

「うん」


突如言われた言葉に思わず苦笑いが漏れる。

頼まれたボトルの液体をグラスに注がれるのを見て、


「おい、どしたどした。それはどーいうあれ?ほら生活系とか恋愛系。もしくは仕事?」


注がれたグラスを手に取って、女に視線を送る。


「全部、全部。楓に癒してもらったら元気になる」

「じゃ、癒してやるから。お前も俺を癒せよ」

「え、癒してほしいの?」


さっきとは対照的に笑う女は頬を緩ませた。

それに釣られ、俺はフッと鼻で笑う。


「そう。ちょっと今な、絶好調気取りの奴が…」

「知ってる、知ってる。楓、負けてるんでしょ?」

「うん?え、負けてる?いや、今どーなってんだろ。つか情報早くね?」

「楓の情報はすぐに耳に入るよ」

「すげぇな、それ」

「ちょっと弱音吐いてよ。楓の弱音聞きたい」


来た時よりも打って変わっての表情を変える女は俺の膝を揺すり更に笑みを漏らす。


「それ聞いたところで癒されんのか?つか、まて。それ聞いても楽しくねーだろ」

「それ聞いて慰める」

「それだけかい。じゃ、まずは乾杯な」


グラスを持った俺は女に向ける。

だけど女は納得がいかないように首を傾げた。
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