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流星に言われた通り、鍵を掛け、地上に向かう階段を上る。
地上に出た瞬間、ガンガンに照らされた太陽に目を顰めると、
「あのっ、彩吹さん?」
めったに呼ばれない、その名前に思わず俺の足が必然的に止まった。
「…え?」
振り返って見つめる先は、綺麗なストレートの黒髪を靡かせた女。
困った表情を浮かべるものの、その女の顔は透き通るほど物凄く綺麗。
いや、綺麗と言うよりも可愛いと言うほうが当てはまる。
清楚なお嬢様って女だった。
多分、男だったら見放さないだろう。
当然ごとく、客じゃないのは一目見ただけで分かる。
誰?と、思いつつ俺はただ茫然として女を見つめた。
「あのっ、あたし葵って言うんですけど…」
「葵?」
首を捻って考えるも、その名前と顔に一致する答えは全くでず俺はそのまま眉を潜めた。
「あ、…美咲の」
「あー…え?」
一度落とした視線を再び上げ、ハッとする。
あぁ、思い出した。美咲が″葵″って、確か言ってた事を。
家の前まで行った時は夜だったため、顏すらちゃんと見れてなかった。
「すみません、突然来て。どうしても会いたくて」
「え、俺に?」
「はい」
「てか、いつから居たの?」
「30分前ですかね。夜に何度か来たんですけど、なかなか会えなくて。むしろこんな時間に会えないと思ってたので会えて良かったです」
「店に声、掛けてくれたら良かったのに」
「いえ、そんな勇気ないですよ」
葵ちゃんは情けなく笑みを漏らし、俺に視線を合わせる。
そんな美咲とは全く正反対の葵ちゃんに、俺までも思わず頬が緩んだ。