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「おいっ!!」
マジ、やめろって。
すげぇ濡れたじゃねーかよ。なんて顔を顰め、服を叩く俺に美咲の笑い声が辺りを響かせた。
その笑い声に次第に俺の頬が緩んでいくのが分かる。
つか、笑えんじゃん。
いっつも悲しそうな顔ばっかしてんのに。
「みぃちゃんがそんな笑ってる顔、初めて見た」
かち合った瞳から美咲は少しずつ逸らせていく。
悲しそうに寂しそうにしてると綺麗な顔が台無し。
最初はどーでもいいって思ってたけど、今じゃそうにもいかなくて。
過去を知ってしまったから、見捨てるとかじゃなくて。
多分、俺はもっとこいつの事を知りたいんだと思った。
今までにない感情が情けない笑みに変わる。
そんな事、一度も思った事ねぇのに。
むしろ高校生にこんなのめり込むとはな…
好きと言う感情はないものの、何故か近くに居たいと思ってしまった。
「つーか、マジで返さなくていいから」
「返すから!!」
ハッと顔を上げて叫んだ美咲にまたため息が零れる。
きっと何度言っても美咲は納得しないだろう。
こいつは周りの女と違うから、きっと素直に受け取らないだろう。
「分かった」
小さく呟いた俺から視線を避けた美咲は水平線をジッと見つめた。
もう空の色が徐々に変わり始めてる。
ズボンの裏ポケットから伝わって来る携帯の振動音。それに触れる事なく俺も同じように眺めた。
掛けて来るのは、きっと流星だろう。