Domain
「えっ、いいよ」
「ちゃんと食えよ。本当はもっといい飯食わせてやりてぇけど、どーもここからじゃ時間が間に合いそうじゃねぇから…」
いや、むしろもう時間の余裕なんて何もない。
いい飯を食わせてやりてぇけど…
そう思うとため息交じりに煙を吐き出し、タバコをすり潰した。
「別にいいのに…」
「よかねぇよ。どうせ帰っても食わねぇんだろ?いつかは倒れんぞ」
視線を落とす美咲を見て俺は車を発進させる。
車内は来た時と同じ何も口を開く事はなかった。
ただ伝わってくるのは、何を考えてんのか分かんねぇ美咲の表情。
″助けて…″
その言葉を言った事すら覚えてねぇ美咲は、きっと物凄く我慢強い奴なんだろうと。
だからこそ、我慢強いからこそ心配になる。
そう思うのは今まで関わって来た女にそう言う奴は居なかったから。
…なのだろうか。
「ちょっと待ってて。すぐに来っから」
一軒の洋風な店に車を停め、俺は車から降りて駆け足で店の中に入る。
奥にはカフェがあり、そこでくつろぐ人達の声がこの木造にこだまする。
「いらっしゃいませ」
そう言ってきた店員に俺はショーケースに指差し、「厚切れカツサンド5つ」言いながらズボンの裏から財布を引っ張り出した。
丁度あったお金と引き換えにカツサンドを受け取り、俺はすぐに車に駆け寄ると同時に見えた美咲の手元。
その手元には一枚の紙に視線を送る美咲の姿。