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「あっ、うん。言ってなかったっけ?」

「聞いてねぇよ。だって俺も言ってねぇし…。俺、芹沢っつーの」


カマを掛けるつもりでなんとなく言ってみた。

いや、むしろ俺の名前を憶えて。のほうが正しいのかも知れない。

夜の仕事の名前じゃなく、俺の本当の名前を。

つか、なんで俺もこんなに美咲にのめり込んでんだってつー話で。

美咲といると俺が俺じゃなくなりそうになる。

むしろ本当の俺がどんなのかも自分では分からなかった。


そんな俺に対して美咲は思い出すかのように視線を遠のき、


「あ、うん」


曖昧な適当な言葉を返してきた。つか、


あ、うん。って、なんだよ、その返答。

だから思わず苦笑いが漏れる。

その返事が知ってるって言ってるようなものだった。

って、別に見られて困るもんじゃない。

ただの病院の領収書。


美咲が車から降り、家に入った瞬間、俺は助手席に手を伸ばし領収書を手に取った。

紙に刻まれているのは3日前の日付。


何故か思わずため息が出た。

思えば薬中毒症みたいなもん。

酒をやめない限りは飲み続けねぇと、体力すら限界だろうと。


そんな事、分かっていながらもホストと言うこの名を捨てる事が出来ない俺は、なんなんだろうと。
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