Domain
アイツの言う事はあながち間違ってはいない。
だけど美咲に深くかかわる事は何故か気が引ける。
深く深くのめり込んでしまえば、俺はきっと仕事と両立は出来ないからだ。
だからと言って、今までにそう言う感覚すら味わった事がないから分からないが、アイツは…美咲は他の奴とは違う所為か、だから余計に俺が深くのめり込んでしまいそうになる。
そうすることで、俺は仕事がルーズになるのは分かっている。
それほど器用じゃない俺は、のめり込むことにセーブするべきだと思ってしまった。
今までの女とは全然違う。
今までは俺が避ければ避ける程、嫌と言うほど迫って来る女とは違う。
アイツは俺を求めようとはせず、俺に縋りついて来ようともしない。
だから俺から距離を置くと何故かアイツが離れてしまいそうで、なのに深くのめり込むことも出来ず、この訳分かんねぇ乱れた感情に途轍もなく苛々する。
「あいつがするわけねーか…」
タバコを咥えたまま携帯の画面を見つめる。
情けねぇため息とともに吐き出した煙が辺り一面に広がった。
画面に出した美咲の名前に躊躇う事無く、コールする。
別に話す事なんて考えてもねーし、なんもないけど。
「…はい」
暫く経って途切れたコールから沈んだ声が聞こえ、何故かその声に安堵のため息が漏れた。
「ごめん、こんな夜中に」
「あー…うん、まだ起きてたよ」
「もう1時過ぎてっけど」
「そんな夜中に掛けて来てんのそっちでしょ?」
「まー、そだな」
あっさりとしてツンとした口調。
その素っ気ない態度に思わず笑みが漏れ、咥えてたタバコを灰皿に押し潰した。