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その日、仕事を終わらせいつも通りにソファーに横たわる。
「楓さん、最近、この店が家になってません?」
目を閉じる瞬間、苦笑いで傍まで来た彩斗にもう一度、瞼を開ける。
「まぁ、なってねーとは言い切れねぇな」
「家、帰ってます?」
「さすがに帰ってるわ。昨日も寝まくったし」
「寝るための家。もうそれ、カプセルホテルっすね」
「お前、上手い事言うな。ほんまそれ。ここのほうが居る時間長いしな」
思わずクスクス笑いながら身体を起し、テーブルに置いてあるタバコを咥え火を点ける。
「もったいねー、あんな高級マンションもっと活躍しねーと」
「何に?」
「みんな呼んで夜景観賞。俺、一回しか行った事ねぇし…」
「絶対無理」
「明日、花火大会ですよ?楓さんちから見えるっしょ?あんな高い場所から見たいっす」
「見えるけど明日、店だから見れねーだろ」
「そうなんっすよー…つか楓さん、ほんと家に人呼ぶの嫌いっすね」
「あぁ、嫌い」
「何でなんすか?」
「唯一落ち着ける場所だから。誰にも干渉されたくねーし、俺の領域にも入られたくねぇの」
「へー…俺んちなんかほぼアキと半同棲状態っすよ」
「は?マジ?」
「アイツ俺んちで飲んでそのまま寝てまうんすよ」
「わー絶対、俺ムリ。あいつ片付けしねーだろ」
「そう。しねーからムカつくんすよ」
ため息を吐きながら取って来た缶ビールのプルタブを開け、彩斗は喉に流し込む。
こいつらの部屋の想像がつくからこそ、おもしろく苦笑いが漏れる。
だからと言って、今まさに俺の部屋も決して綺麗とは言えなかった。