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「もーそれ、金取っちまえよ」
「俺もそう思って言ったら出世したらとか言いやがって」
「出世かよ。で、今日アイツは?」
「なんか病んでるから帰るっつってました」
「病んでる?何に?」
「さぁ…なんすかね」
「…あ、あー…あれ。元カノに振られたかなんか言ってたわ開店前に」
タバコの先端についた長い灰を落としながら、つい思い出したアキとの会話に面白おかしく鼻で笑う。
「あー…なんか未練ダラダラの?」
「そうそう」
「マジそんな病んでんのかよ。楓さん、今までに未練ダラダラってありました?」
「ねーよ。そこまでなる女に出会ってない」
「でも彼女とか居てましたよね?」
「居たけど寄って来られて付き合ったって感じで、そこまでのめり込んで付き合ったとは違う」
「おー…俺もねーっす。でもそんな恋してーな、とは思う」
「もーつかなんだよ、お前ら。今日ずっとそんな話ばっかしてんだけど」
もう勘弁して。
閉店前からアキの恋愛話を聞き、ついでに俺の事も探られ、そして彩斗。
話す事なんか何もねーっつーの。
「いや、楓さん取材受けるって聞いたから」
「それとどー関係があんだよ、」
「聞かれますよ、絶対。ほら、前だって彼女居ますか?って聞かれてたっしょ?絶対聞かれますって。えっと、この辺に…」
彩斗はソファーから立ち上がり、後ろの雑誌棚を探り始める。
その姿を目で追いながら、俺は再びタバコを咥えた。