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「お前、それでよく結婚できたな」
思った通りの言葉を吐き出すと、次第にユカの眉間に皺が寄る。
「アンタに言われたくないわ。それに物凄く優しいの。超男前の紳士だし」
「ははっ、そーかよ。良かったな」
「今日だって、一応アンタの事、報告して出かけるって言ったらさ、物凄く心配してくれてさ」
「はい?」
「一緒に行って大丈夫かよ、とか、何かあったら電話しろとかさ。ね?優しいでしょ?」
「つかお前。俺をどんなふうに説明した」
「んーっと…ママの親友の息子で、弟みたいな奴だけど、昔は荒れまくっていて母親にもキレかかるわ暴言は吐くわ、手がつけられなくてヤバい奴だったけど今は落ち着いてるって」
「お前なぁ…」
「じゃあさ、大丈夫って物凄く心配されてさ、アンタの事かなりヤバい奴って思ってるみたい」
「お前の説明がそうさせてんだろーが」
「まーまー…そんな怒んなくても」
ポンポンと俺の肩を面白そうに叩いて来るユカの手を俺はため息と同時に、手を払う。
そしてズボンからタバコを取り出し、火を点けようとした瞬間、思わずユカに視線が向き、俺はタバコを仕舞った。
「あれ?吸わないの?」
ユカが不思議そうに声を掛ける。
「お前が居るからな」
「あれ?優しいとこあんじゃん。昨日は目の前でバンバン吸ってたのに」
「後から気づいた」
「吸っていいよ。あたし車に居るから。開けて」
「ん、」
数メートル離れている車のロックをボタン式で開ける。
ユカが乗り込んだのを見て俺はタバコを咥えた。
ココから見えるお袋の墓からまだ線香の煙が舞い上がるのが分かる。
ユカが誘ってくれなかったら俺は来ていなかっただろう。
そして来ることを避けている俺は、また当分ここへは来ないような気がした。
ユカの話を聞いて、思った。
自分の神経までもをすり減らして生きていたお袋に、感謝しか、ないと。
失って気づくものってこういう事なんだろうと。