Domain
「しゃぶしゃぶって、この真夏に鍋なの?」
「あー、ここ鍋だけじゃねぇよ」
「あ、そうなんだ。ま、鍋でいいけど」
席について注文し終えた直後、ポケットに入っている携帯が震え出した。
それに手を伸ばし、取り出した携帯の画面には″タケル″と表示されている。
タケルの名前を見ただけで、絶対いい話ではないと予測つく。
だから思わずため息を吐き捨ててしまった。
「…はい」
「お疲れっす」
「お疲れ。どした?」
「いやいや、どうもこうもねーっすよ翔さん。大丈夫っすか?」
「は?」
「翔さんって、結婚してたんすか?いや、その…大丈夫っすか?」
「は?んだよ、」
「俺、翔さんがしゃぶしゃぶ亭に入るの見たんすよ。しかもすげぇ綺麗な妊婦と」
「あ、いや――…」
「えっ、もしかして翔さんのガキっすか?今まで隠してたんすか?」
「いや、だから――…」
「あーっ、そか、隠し子っすか?とうとう出来てしまったんすね」
「おい、聞けよお前、」
俺が口を開こうとするも、ズバズバと遮って話しかけてくるタケルに、ため息が漏れる。
「え?なんすか?」
「俺の女でもねぇし、そういう関係でもねぇし、俺のガキでもねぇっつーの」
その瞬間、携帯に視線を向けていたユカの視線が俺に向いた。
そのユカの視線から俺は避け、隣のガラス張りへと移す。
ここから見える大通りに目を向け、タケルらしい存在を探すも、さすがに居なかった。
「え?そーなんすか?あなたの子供がもうすぐ産まれるの!責任とってよ、とか言われてるんかと思いました」
「ぜってぇないから」
「まじっすか?心当たりないっすか?その綺麗な妊婦さん以外にも」
「あるわけねぇだろ。なんだよ、お前」
「じゃ、そのお方は誰っすか?」
「ガキん時からの知り合い」
「あー…まじっすか。俺、カナリ焦って確認電話しちゃいました。バレたらヤバいっしょ?NO1ホストに隠し子って…」
「まじねぇから。切るぞ。今から飯食うから」
「あーじゃ、またその後の話聞かせてください」
「んな、なんもねぇわ。じゃーな」
一方的にプツリと切り、ため息を吐く。
既に料理が運ばれてきた肉を鍋の中に入れながら、「どしたの?」なんて笑みを漏らしながらユカが口を開いた。