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そのまま俺はクローゼットを開ける。

今日、この日に限ってビニールに包まれているのは白のスーツしかない。

着た黒のスーツはクリーニングに出そうと思ったまま紙袋のままで、忙しく行く暇すらなかった。

こんなんだったら流星に頼んどきゃ良かった。と思いつつ、白のスーツのビニールを剥がす。

とりあえずズボンだけ穿き、首にかけてあるタオルで、まだ濡れている髪を拭きながらリビングに顔をだす。


「みぃちゃん…」


俯く美咲に声を掛けるも、美咲は再び視線を下に落とす。

何も声を出すことなく、俯いてしまった美咲の顔は長い髪で隠れ、その表情すら分からなくなる。

だけど、握りしめていた封筒の手がほんの少しだけ震えていた。


「みぃちゃん?」


美咲の前に腰を下ろし、その美咲の頭に触れ覗き込む。

やっぱ、子猫。

この光景が迷子になってる子猫としか思えなかった。


「どうした?」


その声で美咲は何もなかった様に首を振り、顔を上げる。

笑ってるふりしても、何も笑えてないその表情に、正直、どう扱っていいのか分かんなかった。

どうしてそんな顔をする。

どうしてここに来てそんな顔をする。

正直、美咲の心を読み取ることが出来ない。


「何か飲む?」


それしか言えなくなった俺に、「あ…、うん」と美咲の声が返って来る。

口角を上げ、美咲に背を向けた瞬間、何故かため息が出た。

不安そうなアイツの顔を見ると、抱きしめたくなる。

だけど、それが出来ない俺にため息が漏れる。


ほんとユカが言った通りで、扱い方がわかんねぇ…

情けねーな、俺。


「はい。レモンティー」


いつの間にか傍まで来ていた美咲にコップを差し出す。


「あ、ありがとう…」


笑みを漏らす美咲に俺も口角を上げる。

そのまま換気扇を付けて俺はタバコを咥えた。
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