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「ちゃんと飯食ってる?」
相変わらず細っせぇ身体してんな。と思いながら口を開くと、「…うん」と小さな美咲の声が零れる。
絶対まともに食ってねーわ。と思いながらも食べさせに行く時間すら今の俺にはなかった。
そして再びため息が零れる。
タバコを咥え、視線を美咲に送ると、一点を見つめる美咲の姿が目に入り込む。
その不思議な視線をたどって、あぁ…と心の中で呟いた。
シンクの台に手を着いていた左手。
その腕にやけどの跡。
一生消える事のない、この痕に昔の記憶が戻る。
喧嘩して出来た痕。背中の傷。
もうほんと今思うと馬鹿だったなあの頃は、と思うしかない。
未だに視線を送ってる美咲に、
「そう言えばみぃちゃん、用って何?」
そこから視線を遮った。
その言葉でハッと思い出したかのように美咲は持っていた封筒を差し出す。
「何?」
「お金…」
「あー…」
それな。
まさか、その封筒が金だとは思わなかった。
返すと美咲が言っていたけど、そんな事、既に忘れていた。
つかその為に来たのかよ…
だよな。俺に会いたいとかじゃなくて、金を返しに来ただけかよ。
だからか。だから何も言わずに来たのかよ。
「遅くなったんだけどさ、これ凄い前のお金と後あたしのバイト代。って言っても今回は1万しか入れられなかった。ごめんね…」
申し訳なさそうに言う美咲に俺は眉間を寄せた。
「つーかさ…、」
金の為に来たって思うと、何故か切なくなる。
咥えていたタバコを離し、一息吐いた。
「考えたんだけど、やっぱいらねぇわ」
いや、何も考えてなかった。
むしろ初めからいらないと思っていた。
「何で?」
「やっぱ俺はみぃちゃんから受け取る事は出来ねぇ」
「受け取るって…。あたし借りたんだよ?借りたお金を返すだけじゃん」
「俺は貸すって言ってねぇよ。やるって言った」
「……」
ほんと、いらねぇわ。と思いながらタバコを灰皿にすり潰す。
「それに…、俺の為にバイトしなくちゃって、少しでも思われてるだけで俺が辛いし」
正直、その言葉が一番つらい。
金イコール俺。だとは思ってほしくなくて。
金の為に会いに来るなんて思われたくない。
とりあえず何か腹にいれようと、俺は冷蔵庫からウインターゼリーを取り出し口に含んだ。
「でも、あたしはどっちみちバイトしなくちゃいけないし、貰うとかそう言うの好きじゃない」
美咲は封筒をギュッと握りしめ、俯く。
貰うとか好きじゃない…か。
美咲らしいけどな。やっぱ他の女と違いすぎて、どうしたらいいのか分かんねえわ。
だからと言って俺から避ける事も出来ない。