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「ねぇ、終わったら来てよ」


そうユカから連絡が来たのは閉店後。

今からソファーに寝転んで目を瞑ろうとする瞬間だった。


「面倒くせーな…」


小さく呟き、とりあえず身体を起す。

嫌と言えば、ここにユカが押しかけてきそうな予感がしたため、重い足取りを動かす。

夜中真っ最中なのに街は相変わらず人で賑わう。

古びたビルの落書きを目にしながら、俺は裏通りを進んだ。


「あっ、来たんだ」


中に入った瞬間、ユカの軽快な声が飛ぶ。


「来たんだって、お前が来いって言ったんだろーが」

「だってアンタまじで全然顔出さないからさ」

「ここに来たら説教ばかりだかんな」

「失礼ね!そんなしないわよ」

「つかお前、寝ろよ。妊婦のくせして夜更かしすんなよ」


以前あった時より更に大きくなっているお腹をユカはゆっくりと擦りだす。


「いやー…それがさ寝すぎて寝れないんだよ」

「は?んだよ、それ。むしろ俺がすげぇ眠いっつーの」

「あら、お疲れだね」

「で、なに?」

「特に何もない。アンタと話ししようと思って」

「はぁ?んな事で呼ぶなよ」

「だって向こうに帰ったらさ、憎いアンタの顔も見れなくなっちゃうしね」


余計な一言を言いながらユカは俺の目の前にトマトジュースを置く。

こいつら親子、マジで迷惑。


「お前まで置くな」

「肝臓にいいってママが言ってた」

「……」

「…飲んで」

「……」

「早く」

「…ってかお前、マジ沙世さんに似てきたな。嫌味な性格が」

「ちょっとなにー?翔くん、酷くないそれ。私の何処が嫌味な性格なのよ」


聞いていたのか奥から出て来た沙世さんは不貞腐れた様子で顔を顰めた。

そんな隣でユカはクスクス笑う。


「あ、違げーわ。お節介だった」

「もう何よ。ユカより性格いいわよ」

「そう言われてみればそうかもな」

「ちょ、あんたトマトぶっかけるよ」


ユカが眉間に皺を寄せ、俺のグラスを掴んで睨む。


「お前、その性格誰に似たんだよ」

「ママよ」


嫌みったらしく微笑んだユカは俺のグラスから手を離し、隣に居る沙世さんに視線を送る。

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