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「お願い…。行かないで」


念を押す様に美咲が言う。

精一杯言った所為か、その唇は微かに震えていた。

こんな初めての美咲の姿に俺の理性さえも奪われる。

抱きしめたいと何回か思った事はある。

ホストと言う空間を利用して、抱きしめてやりたいって何度か思った事はある。


だけど、そうすると自分が自分じゃなくなって、仕事と美咲の両立が出来なくなるとずっと思っていた。

俺はそんな両立が出来る程、器用じゃない。


だけど今にも泣きそうで、震えている美咲をギュッと抱きしめたくなった。

そして無意識だった。

更に俯いて行く美咲の頭をゆっくりと撫ぜた後、俺は美咲の顎に手を添え、俯いていた顔をあげる。

潤んだ瞳、悲しそうに見つめる美咲の瞳が微かに揺れる。


そしてその微かに震えた美咲の唇と重ね合わせていた。

ごめん。同意なしにして。

俺の心に沈めていた感情が、言う事を聞いてはくれなかった。


重ね合わして思う事。

あやふやになっていた答え。


…美咲を手放したくない、と。


「ごめん。仕事だから…」


一度離した唇から、そう告げる。

だけど、男としての理性が言う事を聞かず、俺は美咲の後頭部に手を回し再び唇を交わす。


このまま仕事を休むと俺は間違いなくこの勢いで美咲を抱いてしまう。

それはダメなんだと言い聞かせ、意地でも仕事に行かなくてはいけない。


何度も重ね合わしていく唇に答えるかの様に、美咲に唇も動く。

唇を合わせながら、なぜ美咲は拒否しないのか、なんて思ってしまう。

俺が突然したからであって、逃げに道を無くした。と、でも言いたいのだろうか。

何で拒否らねぇの?って口を開こうとしたけど、返答しにくい答えが返ってきたとき、俺は困るだろうと思い敢えて聞くことを避けた。

いや、むしろその答えを聞きたくなかった。

それに。

こんなに。こんなに美咲の事を想う自分自身に戸惑う。

一緒に居たい気持ちがあっても好きにはならないだろうと思っていた。


このまま抱きたい。

だけど。


どこかで止めなければ歯止めが利かなくなる――…
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