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「ごめん…」
唇を離し、俺は小さく言葉を出す。
つい勢いに乗ってしてしまったキス。
今になって、何してんだ俺は。と、後悔する。
そして、そのまま美咲を抱きしめた。
相変わらず細い身体。
ギュッと力を入れると折れそう。
もっと食えよ。
俺の事、心配する前に自分の事、考えろっての。
「来週の土曜、夕食食いに行こ」
「…うん」
小さく洩れた美咲の声。
今のこの状況に驚いているのに違いない。
放心状態の美咲の身体を更に抱きしめ、頭を撫でる。
身動きすらとらない美咲に俺は苦笑いが漏れた。
大概の女は意味もなく抱きしめた俺に、構わず抱きしめ返してくる。
そして、もっともっと抱きしめて。と言って俺から離れようともしない。
だけど今の美咲はそんな事もせず、俺にされるがままだった。
それが何故か新鮮に思えて。
今、美咲を抱きしめているのは、一緒にいたいからであって、決して意味のない抱きしめなんかじゃない。
このまま時間が止まれば…と思うほど俺は美咲を離したくない、と思ってしまった。
暫く抱きしめた俺は、スッと美咲の身体を離し、床にあるスーツを掴む。
「ねぇ…」
零れ落ちる美咲の声。
今から着替えようとする俺の腕を咄嗟につかみ、美咲は視線を落とす。
「どした?」
俯く美咲の顔を覗き込むように俺は声を掛けた。
何を考えてんのか分かんない美咲は、少し間を置いて首を振り掴んだ俺の腕をスッと離す。
「…んだよ」
さっきの事を気にしてんだろうか。
俺の仕事の事を気にしてんだろうか。
それとも俺の身体の事なんだろうか。
何か言いたそうな美咲に敢えて俺は触れず、気を紛らわすかのように笑みを漏らし、美咲の頭を撫ぜた。
「月曜、来てもいい?」
「あぁ」
何で遠慮なんかしてんだよ。
初めて美咲から口にしたその言葉に俺は頬を緩めた。