Domain
重い身体を動かし、スーツに着替える。
結局、美咲はここには来ず、電話さえも繋がらなかった。
何してんだよ、あいつ。
そんな所為もあってか、その日は全くと言っていいほど気分がのらず、一人不意に落ちる。
ほんと俺じゃないように、情けねぇって思う。
たかが来なかっただけ。
たかが電話に出なかっただけなのに、ここまで気になるとは俺も馬鹿だなって思う。
仕事と割り切って、頑張るも、俺の身体は正直だった。
酒が自棄に回る。
いつもより少量なのに、ものすごく酔い感がある。
決していつもより大量に飲んだわけでもないのに、頭にくる。
「…気分わるっ、」
思わず洗面台で俯いてそう呟く俺に、流星が勢いよく俺の背中を叩いた。
「ちょ、お前やめろって。気分わりぃんだよ」
「珍しー…なんかあった?あんま飲んでねぇのにその程度で酔うとは訳ありかよ」
「なんもねーって」
「なんかあったから遅刻したんだろ?珍しーな、遅刻。ブッチして美咲ちゃんと一夜過ごして以来だな」
「……」
「で、今回も美咲ちゃん?」
「……」
「お前が遅刻するって、それしかねーもんな」
クスクス笑う流星の腕を肘で殴り、俺はその場にしゃがみ込む。
流星に否定も出来ないくらい、気分が悪い。
やべっ、まじで物凄い酔い。
かなり久々に感じたこの酔いが、更に気分を悪くする。
「…楓さーん。指名入ってますけど。って、大丈夫っすか?」
覗き込むようにしてアキが俺の顔を見る。
「あぁ、行く」
「どーしたんすか?珍しいっすね」
そんな言葉にまだ居た流星は、
「アキ。お前には分かんねーよ。恋の病がな、酔いを深くすんだよ」
そう言って、流星はケラケラ笑い出した。
「は?なんすか、それ。楓さん、恋の病なんすか?」
「そうそう、アキには分かん――…」
「そのお前の声で酔うわ」
流星に声を遮って軽く舌打ちをした俺は、未だにクスクス笑う流星の背中を行く途中で蹴りを入れる。
「…ってーな、」
笑みを漏らしながら背中を擦る、流星に俺は深くため息を吐き捨てた。