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「今日の夜は来るのかよ」

「今日は来れない。約束している人が居るから」

「約束?」

「気になるの?」

「まぁね。男?」

「そうよ」

「ふーん…俺よりいい男?」

「それはない。楓よりいい男なんていないわよ」


キッパリと言ったリアに苦笑いが漏れる。

コイツはどこまで俺をいい男だと思っているんだろうか。

何も知らない俺の過去。


知ったら絶対、お前は俺を嫌うはず。

リアの想像とかけ離れていて、俺は良い男じゃなくなる。

俺はただ、良い男を演じてるだけ。

そう、この瞬間、夜の世界で演じてるだけの男。

理想と現実は違う。

夜の男から離れると、俺はただの普通の男にすぎない。

特別だとか、物凄い男だとか、そんなの何もないただの普通の男。


そこまで俺を求めるほどのいい男でもない。


リアと別れた後、俺は再び店に入り、テーブルに置いていた車の鍵を掴んで店を後にした。

帰ってすぐにソファーに横になる。

目を瞑って頭の中に過るのは美咲で。

結局電話も出なければ掛けて来ることもなかった。


「マジで、何してんの。あいつ…」


零れ落ちる言葉と同時にため息が出る。

むしろ1人の女に逢着している自分自身にも驚く。

たかが電話に出ないくらいで。

たかが相手から掛かってこないだけで、こんなにも気になるんだと初めて感じたこの感情だからこそ、みっともねぇって自分でも思う。

ほんと、いい歳して馬鹿だな、俺。


そんな美咲との連絡がとれないままの数日。

誰かの事で頭がいっぱいになるのは初めてで。

誰かの事を一日中考えた事も初めてで。


こんなにも誰かを想う自分自身の感情に思わずため息が出る毎日で、仕事どころか、酒の所為で気が遠のくなりそうだった。
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