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諒也から連絡が来たのは木曜日の夜だった。
美咲の母親が倒れたって聞かされ、その所為で忙しいんだろうと思い込んでいた。
案の定、電話も出なければ掛かっても来ない。
だからと言って、俺が美咲の家に行くのはちょっと違う気がした。
だけど電話に出ない理由が分かったから、少し気分が落ち着いた気がした。
いや、正確には理由がそれでかどうかなんて分かんねぇけど今はとりあえずホッとした。
いつか美咲が言っていた。
働き者でよく体調壊すって。
だからそれが俺の母親と被ってて、昔を思い出すかのように心配した。
あいつ、大丈夫か?
なんて思ったところで俺には何も出来ない。
ただアイツを繋ぎ止めるのは電話しかないと思っていて、だけどその電話は今は繋がろうともしない。
のめり込んでしまうと、俺は仕事に支障をきたす。
そんな事分かっていても、アイツの事だけを考えてしまう。
「情けねぇ…な、俺」
ふと呟いた声にさえ苦笑いが漏れる。
結局そんな事を考えなら美咲と約束をしていた土曜日が訪れる。
この土曜日にしたのも美咲に合わせただけで、俺の仕事が休みだからとかじゃない。
バイトをしてるって言ってたアイツに合わせただけ。
夜飯食って、その後から遅れてでも仕事にいけばいいなんて思っていただけ。
だけど午前中から掛けていた俺からの電話には美咲は出る事はなかった。
トビの仕事を終え、家で何度も美咲に電話をした。
けど美咲は出る事はなかった。
握りしめた携帯の画面に今、思い浮かんだ人物の名前を映し出す。
暫く経った後、「…はい」と辺りの騒がしさとともに諒也の声が聞こえた。