Domain
「お前、帰んの?」
深夜1時過ぎ。
仕事終わりの俺に流星は声を掛けて来た。
「あぁ」
「テンション低っ、」
「お前がたけーんだろ」
「最近元気ねーのな、お前」
「そうでもねぇよ」
「そう?みんな言ってる」
「へー…」
「お姫様達がな」
「俺は必死にやってっけどな」
そうは言ったものの、無理やり必死を作ってるだけで、無理やり頑張っているだけ。
それが空回りしてんのかも知んねえけど、俺なりにやってるつもり。
「必死ねぇ…。恋はな、辛くてなんぼだからな!」
「は?わっけわかんねーわ。帰るわ」
背を向けた俺にケラケラと笑い声が聞こえる。
アイツといっと調子狂う。
狂いすぎてなんつっていいのか分かんなくなる。
店を出て、大通りに向かいタクシーを拾おうとした。
けど何を思ったのか俺の足はまた店の前を通り過ぎ、一軒の店へと向かう。
なぜ、ここに来たのかも分からない。
裏口から入り、その俺に気付いた沙世さんはビックリした表情で笑みを漏らした。
「あれ?どうしたの?自分から進んで来るなんて」
「悪い?」
そう言いながら俺は沙世さんが居る目の前のカウンター席へと腰を下ろした。
「悪くないよ。嬉しいだけ」
「……」
「来てくれるだけで嬉しいよ。大切な息子よ」
「別に大切でもねぇだろ」
「私にとったら大切な息子だよ。で、なんかあった?久しぶりに来たと思えば浮かない顔だね」
微笑んだ沙世さんから視線を外し、俺はタバコを咥える。
火を点けた瞬間、いつも通りの赤い液体が目の前に置かれた。
「沙世さんそれ出すの好きっすね」
「だって翔くん好きでしょ?」
「好きじゃねぇし。俺がいつ好きっつった?」
「あれ?言ってなかったっけ。嫌いもね、そのうち好きになるものなんだよ」
「なんねーわ」
「そんな事わかんないわよ。嫌い嫌い絶対に好きにはならないって思っててもね、何かのきっかけで好きになることだってあるの。それが物であっても人であってもね」
「ふーん…」
煙を吐き出しながら手にグラスを掴む。
グラスを左右に振って揺れる液体を見つめながら俺は口にした。
まずっ、
顔を顰める俺に沙世さんはいつも通りに笑みを漏らす。