Domain
「図星…か、」
「……」
フフッと笑う沙世さんの声が耳を掠める。
その言葉に何故か俺は″違う“とは否定出来なかった。
俺が俺じゃないみたいで。
嫌になる。
「あのね、好きになるのは簡単だけど、そこからは迷い道だから」
「…は?何それ」
「ついこの間、店の子がね、翔くんと同じ事言ってきたの。辞めようかなって」
「……」
「翔くんもだけど、その疑問形なに?かなって、なんなの?なんで問いかけてんの?」
「……」
「辞めたかったら辞めればいいじゃない。どうせ翔くんの事だから、この仕事に罪悪感感じてるんでしょ?」
「……」
「確かにね、そうだよね。気になる子いんのにこの仕事に何やってんだ。とか思うよね。でもそう思うのって、少なからずあんまりいないわよ。翔くんと多数しか」
「…俺、くらい?」
「だって両立出来ないでしょ?店の女の子達とは真逆の子を好きになっちゃうと、尚更だよね」
クスクス笑みを漏らす沙世さんに、軽く目を瞑りため息を吐きだす。
そして未だに指に挟んでいたタバコを灰皿にすり潰しながら、沙世さんに視線を送った。
「何の推理だよ、それ。しかも好きな奴いるって言ってねぇしな」
「この仕事してるとさ、色んな悩みを打ち明けてくる子いるからね。仕事って割り切らないと出来ないよ?その子が辞めてって言ったら辞めるのもアリだと思う」
「……」
「その子が翔くんの事、どう思ってるのかは知らないけど、もし翔くんの事を気にしてるんだったら宜しくない仕事だよね?だからと言って辞めるって決断は難しいよね?」
「……」
「相談してきた子もさぁー…全く同じ悩みだったな。でもさ、翔くんは辞める決断は今じゃないでしょ?ほら。これ食べなよ」
「は?…んで、そんな事わかんの?つかお粥って病人食かよ」
目の前に置かれたのは豆腐と卵粥。
そしてホイルに包まれているそれを開けると、ササミと野菜が入っていた。