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「だってある意味病人じゃん。胃に優しいもの食べないと。こんなんだけど栄養たっぷりだよ」
「……」
「身体壊しちゃどうにもならないしね。ま、壊しちゃうと今の仕事は強制的に辞めないといけなくなるしね。案外そのほうが翔くんにとって楽なのかもね」
「何が言いてーのかさっぱり俺には分かんねぇわ」
「だからさっきも言ったでしょ?悩んでるんでしょ?その辞め時は今じゃないって、そう思ってるのは翔くん自身でしょ」
「俺、自身って何?沙世さん俺の事なんも知らねーじゃん」
「自分から辞めようかなって話てきたくせに何、その言い方。翔くんの事なら分かるわよ、何年あなたの母親してきたと思ってるの?」
「……」
沙世さんが淡々と口を開く言葉を聞きながら、俺は俯いて卵粥を口に運ぶ。
そっけねぇ食いもんだけど美味しい。
母親の味と全く同じ。
そう言えば沙世さんって、俺の母親に料理教わってたよな。
それが今となってはようやくわかった気がした。
俺が好きな物、好きな味付けを知ってるのは沙世さんがお袋から教わったんじゃなくて、お袋が沙世さんに強制的に教えてた事。
亡くなるって分かった頃から頻繁に2人で料理をしている所を見た事がある。
…全部、俺の為だった事に後で気づいた。
「辞め時なんてね、あやふやだと分かんないわよ。そんな事、自分でわかってんじゃん。ちゃんと語ってたでしょ?」
「語ってた?いつ?」
「雑誌にそう書いてあった」
「はぁ?勝手に読むなって」
「違うわよ。わざわざ私が翔くんの雑誌を買って読むわけないでしょ?店の子が持ってきて見せてきたから読んだだけ」
「……」
「だって、翔くんの事、好きな子、多いんだもん。それに翔くんがこんな事、相談してくれてるだけで嬉しいよ」
ニコッと微笑む沙世さんから視線を逸らしながらため息を吐き、とりあえず出された物を口に運ぶ。