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「なに?」
「お肉食べて。肉くらい焼けるでしょ?」
「あぁ。…いいんすか?」
「うん。これでスタミナつけてね」
「どーも。気を付けて帰れよ」
「ありがと。じゃーね、また店に来てね」
「そのうち」
クスクス笑う沙世さんに俺は軽く手をあげて、車が発進すると同時に足を進める。
リビングに着いた瞬間、テーブルに紙袋を置き、その中に入ってる物に思わず苦笑いする。
「嫌いっつってんのに…」
取り出した物はトマトジュースと野菜ジュースの数本の缶。
どうりで重いと思ったわけで、その缶には濃縮、濃厚と書かれてある。
飲んでなくても分かるそれは、絶対に不味いだろう。
ほんと母親だな。なんて思いながらそれと木箱に入っている肉を冷蔵庫に入れると、俺はすぐにシャワーを浴びて寝落ちした。
目覚めたのはけたたましく鳴る着信音だった。
手探りで携帯を掴み、目の前まで持ってくると薄っすら目を開ける。
“タケル″の文字に一息吐き、耳に当てた。
「…悪い。寝てた」
「マジっすか?もうマンションの前なんすけど」
「あー…すぐ行くわ」
電話を切り、画面に表れた7:00の文字に一息吐き、気怠い身体を起して、身支度を済ませる。
エントランスの前に寸止めされた車に乗り込み、まだ眠気が吹っ飛んでない身体を窓側に預けた。
「おはよっす」
「…はよ。お前、エントランス前に寸止めって邪魔すぎんだろ」
「翔さん、すぐ来るっつったから。なのに25分も待ったっす」
「え?そんな待ったか?」
「今、27分っす」
「あー…悪い」
「最近、自棄にお疲れっすね。飲みすぎっすか?」
「いや。あんま飲んでねぇけど」
いつもと一緒。
なのに自棄にここ最近、酒が回る。
心当たりは十分ある。
頭の片隅に浮かんでくる美咲で。
沙世さんが言った通り、俺は両立するほど器用じゃない。