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この日はいつもより量を減らした。
にも係わらず、身体が重い。
営業終了後、薬を飲んだ俺はうな垂れる様にソファーに横たわる。
横たわった瞬間に、数秒もせずに瞼が落ちていた。
「…い、楓。…おーい楓、起きろよ」
「……」
「おい、起きろって!電話鳴ってっぞ」
「……」
流星の声が聞こえるものの、目が開かない。
そんな俺に流星の声が何度も聞こえるけど身体が動かなかった。
「おい、起きろっつってんだろ!…あ、諒也から」
「……」
…諒也?
「もっし、もーし。おい、諒也、お前久々じゃねーかよ、こんな時間にどした?…ん、え?楓なら寝てんぞ?…起こしても起きねーんだよ、」
「……」
流星の声が徐々にはっきりと耳に伝わって来る。
次第にうっすら目を開け、遠のいていた意識が現実に引き戻され、
「え、なに?…急用な――…」
「おい、貸せ」
身体を起して流星の手から慌てて携帯を奪った。
「…悪い。寝てた」
「今、何処っすか?」
「店。どした?」
「美咲から連絡があった。っつっても俺にじゃなく葵に」
「…美咲が?」
「ほっつき歩いてる。帰れねーから向かいに来いって。葵のお手伝いさんに頼んでって」
「意味わかんね」
「どうする?翔さん行きますか?」
「…悪い。俺すげぇ飲んでんの。今から帰っからお前連れて来てくれる?」
「いいっすよ。2時半過ぎると思う」
「悪いな。俺もすぐ帰るわ」
電話を切った後、俺はテーブルに置いてあるタバコとライターと財布をポケットに突っ込む。
「今度は美咲ちゃん?お前も忙しいねぇ…綺麗な女には目が無いって事か。お前が羨ましいわ」
流星を無視して急ぐ俺は大通りに向かって、走った。
その所為で余計に気分が悪くなり、酒がまた回りだす。
「気分わるっ、」
思わずため息交じりに呟き、既に停車してあるタクシーに乗り込んだ。