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バタンと閉まる車のドアと、クラクションが鳴り車が発進していく。
「えっ、ちょ、ちょっと待ってよ!!」
それと同時に美咲の困惑した声が聞こえた。
いったいお前は何をしてた?なんて聞く権利など俺にはない。
こんな時間にほっつき歩いて、何をしてた?って、そう聞くわけにもいかず。
密かに聞こえる足音に今まで俯いていた顔を上げると、美咲は俺に背を向けて歩き出していた。
「帰んなよ」
思わず出てしまった素っ気ない声。
その俺の声に美咲の足がピタリと止まる。
だけど、その足は再び歩き出し、
「待てよ。…美咲!!」
苛立つように叫んでしまった。
なのに美咲の足は止まることなく、俺は思わず舌打ちをした。
吸っていたタバコを空き缶の中に入れ、俺は美咲を追った。
「おい、待てって言ってんだろ」
「……」
「逃げんなよ」
咄嗟に掴んだ美咲の腕があまりにも冷たく、俯いている美咲の肩が少し震えているようにも感じる。
もしかして泣いてんのか?
緩く巻いた髪ではなく、初めて見るサラサラしたストレートの長い髪が美咲の顔を邪魔してた。
このまま美咲を帰らすわけにもいかない。
折角こんな形で会ったとしても、俺は美咲を手放す事は出来なかった。
「なぁ、俺の事、避けんなよ。ちょっと話ししてーんだけどいいか?…中入ろ」
力を込めて掴んでいた美咲の腕を離す。
力ずくて引っ張って、中に入れる事は俺には出来ず、美咲自身の足で来てほしいと、そう思ったから俺は腕を離した。
だけど美咲の足音は聞こえず、再び俺はため息を吐きだす。
「なぁ、来いよ」
振り返って美咲に視線を送ると未だその場所で立ち尽くしている美咲は俯いている。
暫く美咲を見つめてたけど、美咲の足は一向に動く事はなかった。