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「あのさ、」
そう言ったものの、この先の言葉など俺は考えていなかった。
聞きたい事は山ほどある。
美咲がここに来ると言った日の事も。
俺と約束していた食事の事。
別にそんな事は今更どうでもいいけど、今まで何してたって事。
電話も出ずにお前は今まで何をしていた?
思い浮かべるのは以前話していた美咲との会話。
お金が必要って。
夢があるからその為にお金が必要って。
だからその言葉とこの前見た男がリンクして、その後はどうしてたって事。
だけど俺の口からは何もきく事は出来なかった。
だって俺と美咲はそんな関係でもねぇから。
どんな言葉を吐き出そうかと悩みながら、俺は目の前の灰皿にタバコを打ち付けながら、そこに視線を落としたままボンヤリと見つめていた。
「何?」
暫く俺が言葉に詰まっていると、美咲は小さく声を吐き出した。
その声に視線をあげると不意に重なった美咲との視線。
そのカチ合った瞳から俺は視線を逸らし、吸っていたタバコを灰皿に押し潰し、俺は深くソファーに背をつけた。
「あのさ、電話くらい出てくんね?」
「……」
何回掛けたかも分からない俺の電話に美咲は殆ど出る事はなかった。
後で掛け直してくることも出来ただろうに、それを美咲はしてはこなかった。
別にそこまでの関係じゃねぇって、分かってるけど、なぜか俺は美咲が気になって気になって仕方がなかった。
「みぃちゃんの事だから凄い心配する。あんま食べねぇから、どっかで倒れてんじゃねぇのかとか…」
「……」
「だから、とりあえずは出てほしい。俺の事、嫌いならそれはそれで別にいい。むしろ嫌だったら言ってほし――…」
「嫌じゃないよ」
俺の声を遮った美咲に視線を向ける。
嫌じゃなかったら出ろよ。と思うものの、俯く美咲は何故か沈んだ顔をしていた。
だよな。
そりゃそうなるわな。
勝手に連れ込んできたのは俺。
困るのも無理ねぇよな。
ごめん。
むしろ嫌いって言ってくれる方がよっぽど良かった。
嫌いって言ってくれた方が簡単に身を引けるから。
嫌いじゃないよ。って言われると、手放したくなくなる。