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店に着いて、シャンパンをオーダーしたシズカに、グラスを渡す。
「ねぇ、楓の好きな人のタイプってどんなの?」
グラスに口をつけたシズカは興味津々に俺を見つめた。
「タイプっつーか女はみんな好き」
男って、んなもんだろ。
だからって恋愛感情など俺にはない。
昔っからそれは変わらない。
「えー、それ答えになってなくない?」
「今日はシズカやし」
「嬉しいけど、胡散臭いー。しかも今日って何よっ、」
「胡散臭いっつーな」
「だって彼氏にも言われないもん」
笑みを漏らす俺にシズカは頬を膨らませ不満げに口を開く。
「つか男おるんかよっ、」
「でもー…楓に乗り換えよっかな。彼氏より男前だし最近上手くいってないし」
「はいはい。もう彼氏の話はいいって、嫉妬するから」
「えー、ホントに?」
「あぁ。常に女は抱く気でおるから禁句」
流すように軽く笑みを見せ俺はシズカの手を軽く握って頭を撫ぜる。
そうすることによってシズカの頬が緩む。
グラスに口をつけたけど、そうガツガツ飲めなかったのは事実。
それを紛らわそうとポケットに手を突っ込んでタバコの箱を取り出そうとした瞬間、微かに触れたそれを軽く握った。
…一万円札。
思わずさっきまでの事が頭の中を過り軽く息を吐いた。
出来るだけ、あいつの顔は思い出したくない。
思い出せば思い出すほど、調子が狂う。