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「おい、美咲!!」
何度も美咲の名前を呼ぶ俺の声すら聞こえてねぇのか、美咲はただその場所から動こうともせず、こっちをずっと見ていた。
何を考えてんのか分かんねぇ美咲から視線を逸らし、俺は抱えていた諒也から腕を離し、ポケットから携帯を取り出し救急車を呼ぶ。
「…翔さん。美咲の事、責めないでほしい…」
「……」
「だから――…」
「分かったから喋んなよ。後は俺がなんとかすっから」
「葵も――…」
「分かった。分かったからこれ以上口開いて体力使うな」
顔を顰めて呼吸を乱す諒也の姿を見ながら、さっきまで引っかかってた事を過りだす。
あの男の顔が全然思い出せず、いったい俺は何処で会ったんだろうと。
頭を捻って叩きだしても全然、思い出せず、その思考はサイレンでピタリと千切れた。
「諒ちゃん!!」
やっと意識が戻って美咲が声を出したのはタンカに諒也が乗せられた時で、俺は少しだけ美咲に安堵のため息が漏れた。
「葵ちゃん…」
泣き崩れてしゃがみ込んでいる葵ちゃんに視線を向け、美咲に伝える。
「いやぁぁぁぁ――!!」
ボロボロ涙を流し壊れそうなくらいの悲鳴をあげる葵ちゃんの声に、目を背けたくなってしまった。
「葵、しっかりして!大丈夫だから…」
「大丈夫な訳ないじゃん!!あんなに血が出てんだよ?大丈夫な訳ないじゃん!!」
2人の会話が聞こえる中、「急いでください」救急隊員の声が聞こえる。
「早くしろっ!!」
思わず声を上げると美咲は葵ちゃんの手を引いて救急車に乗り込んだ。
この狭い空間。
美咲と葵ちゃんは隅の方で身を寄せている。
俯いて泣きじゃくる葵ちゃんの背中を美咲は涙一つ出さずに擦っていた。