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病院に着き、諒也が手術室まで運ばれて行く。

何がどうなって、こうなったのかは俺にはいまいち分からず、ただ思い浮かべるのはあの男の顔。


「誰だアイツ…」


不意に漏らした言葉。

思い出せない苛々と何度も出てくため息。


携帯を取り出し、とりあえず流星に連絡を入れようと着信履歴から名前を探している途中、ふと俺の指がそこで止まった。


あ、あぁ…アイツだ。


掛けようとしていた手が止まり俺は再びポケットに携帯を入れる。


「…みぃちゃん…」


美咲の顔色も悪い。

その顔を隠す様に額に手を当てて俯く美咲に声を掛けると、美咲はすこしずつ視線を俺に向けた。


「後は頼むな」

「…え、ちょっと待って!」


足を進める俺の背後から美咲の焦った声が聞こえる。


「ん?何?」

「何処行くの?」

「あー…ちょっと」

「ちょっとって…」

「まだやる事あるし」

「やる事って?…仕事?」

「あ、いや…。みぃちゃんは心配しなくていいから。後は俺がなんとかする。…葵ちゃんの傍に居てあげな」


美咲はそれ以上何も言わなかった。

ソファーで崩れるように寝ている葵ちゃんの姿が痛々しく感じる。

今、ここで俺が二人に寄りそう事も考えたが、それよりも先に思い出した事を早く解決したかった。


外に出て少し肌寒い空気を吸い込む。

夜中真っ最中のその暗闇の中、俺は携帯を取り出し明かりをつけた。


そして俺は蓮斗にコールした――…
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