Domain

「うん?」

「ごめんね。急に来てごめんね?」

「何で謝んの?」

「迷惑だよね?ごめんね?」

「迷惑なんて、これっぽっちも思ってねーよ」

「……」

「俺はみぃちゃんが来てくれて嬉しい。ほんとにそう思ってるから」


微笑んだ俺に対して美咲は何故か悲しそうに笑みを浮かべ、俺から視線を落とす。

その表情を見て、俺は部屋を後にした。


美咲の辛そうな瞳が揺れ動き、それを必死に隠そうとしているその姿に、俺はこれ以上何も出来なかった。

抱きしめることは出来ても、無理やりのキスも抱く事も俺には出来なくて、正直俺はどうしたらいいのかなんて分かんなかった。


風呂から上がりベッドに横になる。

眠る美咲を見て俺の瞼はすぐに落ちた。



耳元で鳴るアラームが自棄に早く感じた。

結局寝たのは一時間半くらいで、身体を起してまだ冴え切っていない頭を擦る。


俺の方を見て眠る美咲の頬に無意識に手が伸び、俺はそっと触れる。

…何もしてやれなくて、ごめんな。

傍に居たいと言ったのは俺なのに、美咲の不安も何もかも全て取り除くことが出来ない。


何に迷って、何に苦しんでいるのかさえ、分からない美咲の心の中に、俺は深く入る事も出来なかった。


ただ、美咲が好き。

それも伝えられなくて、いったい俺は何がしたくて、どうしたいのかも分からずにいた。


そんな自分が自棄にうっとおしく、過去と同じくらい自分が嫌いだと思った瞬間だった。

そう思えば思うほど、なんで俺は美咲を好きになってしまったんだろう、と不意に思う時がある。


ほんと、なんだよって思う。

(ほだ)されるつもりなんかなかったのに… 

< 331 / 351 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop