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コンコンとノックをする俺に柔らかい返事が返ってくる。
中に入り淡いピンクのカーテンを捲る俺の存在に、目の前の人は不思議そうに俺を見つめた。
…美咲のお母さん。
どことなく似ているその表情が、美咲と重なる。
美咲と似て綺麗な顔をしていた。
「突然来てすみません」
「……」
「芹沢翔って言います。突然来て、こんな事言うのもアレなんですが今、美咲さんと居ます」
「…え?美咲と?…あの、どーゆー事ですか?」
少し目を見開き困惑したお母さんは手に持っていた本を閉じ、テーブル置く。
そして俺をジッと見つめた。
「すみません、ほんとに」
「あ、いえ…なんかビックリしちゃって。居るって事は一緒に住んでるって事ですか?」
「はい。あ、付き合ってるとかそー言うのじゃないんですけど…。ほんと突然来てなんだって話なんすけど…」
「……」
「ただ適当な気持ちで一緒に居る訳でもないです」
「…そう、なのね。…良かった」
「すみません。もっと早く来たら良かったんですけど」
困惑した表情からゆっくり微笑んだお母さんの表情が柔らかくなる。
そしてお母さんは不意に出た涙を拭った。
「ごめんなさいね。あの子、何考えてるのか分からないでしょ?」
「まー…」
多少あってるからこそ、なんて言ったらいいのか分からなくそう小さくつぶやいて思わず苦笑いを漏らしてしまった。
「あの子、本来の本当の姿を消し去ってしまったのは、私だから…」
「……」
「しんどいって、辛いって、そんな言葉は無縁のように我武者羅になってる所為も私の所為なの。人に頼る事もないし、あの子にはいっぱい我慢させてしまってね、ほんと申し訳ないと思ってるの」
「……」
「離婚したのは親の問題で親の責任なのにね。あの子は何も悪くないのに」
「……」
「でもね、あんな子だけど優しいの。ごめんなさいね?美咲はどうしてます?学校には行ってるのかしら?」
「元気ですよ。でも学校には行ってなくて…。行かせようと思うんですけど、無理に行けって言うのも」
「そうなのね。でも元気で良かった。それだけ聞けたら安心するわ。あの子、何も言わないから。‥何も」
頬に伝う涙が安堵の涙なのだろうか。
その姿を見ると、過去のお袋の姿とリンクしてしまう。
荒れた俺にでも元気にしてる?って聞いてきたお袋の涙と重なった時、もう一度あの頃に戻りたいと、そう思ってしまった。
もう二度と戻らない過去に、俺は戻りたいと思ってしまった。
ほんと今更だよな、、