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「ここに来てるのは美咲さんは知らなくて、諒也に聞きました」
「あぁ…諒也君?あの子にもほんと迷惑掛けっぱなしでね、申し訳なくて」
「…あの。諒也から返された美咲さんの通帳、俺に渡してくれませんか?」
「え、通帳?」
案の定、お母さんは驚いた表情をし俺を見つめる。
そら、そうだよな。
突然来て誰だかわかんねぇ男にこんな話しされて驚くに決まってる。
だけど、それが俺には必要で。
「俺から話してみようと思ってるんで。留学をしないって言ってるみたいなので…」
「美咲が行かない事はなんとなく分かってたんだけどね。諒也くんから返された時、あぁ行かないんだって、そう思ったのよ」
「……」
「でも、なんでかなって思う。あれだけ必死だったのに」
「……」
「きっとあの子はお金の事を心配してて。それに私までもが身体悪くしちゃって、余計に困らせてるんでしょうね」
「…すみません。美咲さんがあやふやな行動をとってるのは多分、俺の所為だと思います」
「そんな事ないわよ。私があの子にはいい思いなんてさせてあげられなかったから。毎日働きづめで殆どいい母親をしてなかったから」
「……」
「それの罰が当たったのかな、なんて思うの。こんな所にずっといて、余計に美咲に迷惑掛けてる」
悲しく笑ったお母さんの瞳が少しづつ潤み始めた。
その瞳から俺は少しだけ背ける。
ここの空間は好きじゃなった。
過去と重なって、まるでお袋と話しているかのように俺の心の中を苦しくさせる。
まるで、過去の俺に言ってるみたいで…
切なくも、苦しかった。