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「…そんな事ないと思いますよ。だから自分を責めたりしないで下さい」
「……」
「美咲さんはお母さんの事ものすごく好きで大切に思ってます。だから美咲さんが来たら笑顔で迎えてやって下さい。俺が言える事じゃないんですけど」
俺に出来なかった事。
お袋の事を何一つ大切に出来なかった。
大切にせずに逝ってしまったお袋の事が美咲のお母さんで記憶が舞い戻ってしまう。
「ごめんなさいね…」
「いえ。俺の方こそ突然来て、こんな事言ってすみません…」
そう言った俺に美咲のお母さんはゆっくり首を振り優しく笑みを漏らした。
「そんな事ないわよ。美咲の事、そんな風に思ってくれてありがとう」
「いえ」
「芹沢さん?だったかしら」
「はい」
「あの子、迷惑掛けてないかしら?」
「いえ、大丈夫ですよ。ただもう少しだけ一緒に居ていいですか?お母さんが退院されたら帰らせます」
「わかりました。一人でいるより美咲もそのほうがいいと思うし。それに美咲の意思でそこに居るんでしょ?だったら私が何かを言う筋合いなんてないわ。ほんとに、ごめんなさいね。なんだかあの子の留学の事まで気にしてもらってて」
「いえ」
「でもあの子が行きたくない理由もなんとなく分かった気がするわ」
「……」
お母さんは俺に視線を向けて優しく笑みを漏らす。
「美咲は…素直に自分の言葉が言えない子だから迷惑すると思うよ?」
「迷惑掛けてるんは多分、俺の方ですから…」
「ま、そうさせてしまったのも私のせいなんだけど。我慢ばかりさせてしまったから自分の気持ちも言えなくなってしまったの。ほんとは言いたい事、沢山あると思うけど」
「……」
「ごめんなさいね、ほんとに…」
「いえ、俺は特に何もしてないですけど」
優しく笑みを返すお母さんは引き出しに手を伸ばし、そこから通帳を取り出した。