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「つか沙世ママってそんな怒んの?」
「怒らせたらすげー怖い」
「見えねぇー…。美人ママにしか見えねぇわ」
俺はフッと笑って新しいタバコに火を点け初めの煙を吐き出した。
「騙されんなよ、お前。…で、大切にしろって言ったじゃない!女一人守れないようじゃ男失格よって、すげぇ剣幕で怒鳴られてよ、」
「それはあれだろ。お前の過去が適当過ぎっからだろうが」
「あの時はなーんも考えてなかったからな、俺。だって悩みすらなかったし」
タバコを咥え苦笑いで笑う。
そんな俺を流星は馬鹿にした様に鼻で笑った。
「で?今は悩みの宝庫ってやつ?」
「なんか沙世さん泣かせてから、もう泣かせたくねぇなって思って。だからと言って好きな奴みつけよーとか思わなかったし、逆にホストしてっと面倒くせーわって思ってたし、付き合うとかマジめんどくせぇなって。んな構ってやれる時間なんて俺にはねぇし」
「お前は女と時間に縛られるのすげぇ嫌いだもんな」
「あぁ、すげぇ嫌い。でも、美咲は違うんだよ。なんも俺の事縛ってこねぇから楽。あ、まぁ楽っつー言い方したらアレだけど、一緒に居たら落ち着く」
まぁ、それが楽っつーのかもしんねぇけど。
その楽に溺れてしまったのは、言うまでもなかった。
俺が俺じゃないように、溺れてしまったのは俺。
「…で?美咲ちゃんはそっから学校行ってんの?」
「行ってねーんだよな、それが。諒也の事があってから」
「あぁ…そっか」
「ずーっと寝てる。人間そこまで寝れるんだってくらい寝てっけど」
「それ生きてんの?」
「生きてるわ」
フッと笑った俺に続けて流星も口角を上げる。
そしてタバコの火を消した流星は小さくため息を吐いた。
「で?辞めた後どーすんの?」
「さぁ。なんも考えてねー…美咲に対する俺の気持ちは一方的なもんだし。いつかは辞めようと思ってたし、丁度いいかなってな。でもその辞め時は今じゃないって事は確かだし。まぁ、美咲の為に辞めるとか、そんなんでもねぇし」
「ふーん…ま、お前が決めた事だから何も言わねぇけど。俺からの条件」
「なに?」
「この5年、NO1から落ちるなよ」
「なにその条件」
「決めたんなら最後まで全うしろよ」
「全うねぇ…」
苦笑いで呟きながら俺はタバコの灰を灰皿に打ち付け、ソファーに深く背をつけて天井をボンヤリと見つめた。