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「辞める時まで他の奴らには言わねーけど」
「言われたら困る。ま、お前だけには言っとこうと思って」
「そりゃどーも」
そう言って流星はフッと笑った。
「つか、もう帰るわ」
「はいよ」
口から離したタバコをそのまま灰皿にすり潰す。
立ち上がって手に持っていた水を口に含み、俺はその場を離れた。
…深夜2時50分。
滅多にこの時間に歩く事のない街並みは決して変わることなく、こんな時間に関わらず人がチラホラと歩いている。
流星が言う様に身体の調子は良かった。
閉店後、店で寝るか、もしくは酒を飲むか。
睡眠もまばらでほぼ寝ない生活。
それが今では何もせずにすぐに帰って寝る。
今までのその習慣が美咲によって一変した。
だけどホストをしている限り、毎日そんな事が出来るわけでもない。
同伴もアフターもしなきゃいけねぇし。
だからと言って、そんな事、美咲に言えるわけがない。
「…なにぃ?珍しいわね、こんな時間に」
大通りに向かう途中、クスクス笑った声に俺は反応し、振り返る。
その先に見える沙世さんはカツカツとヒールの音を立てながら俺に近づいてくる。
また沙世さんに出会ってしまったことに出てしまったため息。
相変わらずその年齢にして綺麗な美貌の沙世さんについ頬を緩めてしまった。
「ちょっと何よ、そのため息。やめてよね、あたしを見てため息吐くなんて」
「……」
「何してんの?こんな時間に歩くことないでしょ?」
「そう?」
「だっていつも閉店後か早朝なのに。でも、ここ最近は速攻帰宅らしいじゃん?」
クスリと笑う沙世さんは、きっと流星とユカの話を聞いたんだろう。
そう思うと、また長くなりそうな予感がした。