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風呂から上がり俺は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し寝室へと向かう。
少し開いていたそのドアを更に開け、足を進めた。
ベッドに寝転んでいる美咲の手元には何かがある。
その何かというのは俺が渡した美咲の通帳だった。
「どした?」
「あ、」
俺に気付いていなかったんだろうか。
ベッドに腰を下ろし声を掛ける俺に美咲は慌てたように通帳を布団の中に隠した。
「まだ迷ってんの?」
そう言いながら手に持っていた水を口に含む。
含み終わった後、美咲に視線を送ると気まずそうに美咲は俺に背を向けた。
「迷ってるって言うか…」
「何?」
「分かんない」
「何が?」
「あたしがする事、あたしがしてあげられることは何かって。ママにしてあげられる事」
「別にそのままでいいんじゃね?みぃちゃんはそれで十分だと思うけど」
ほんと、お前はどこまで頑張んだよ。
もう、そろそろ休めよ?
「充分って、あたし何もしてない」
「うん。つか、そう思える事だけでいいって事。思わないよりそう思えるってだけでいい事じゃん。お母さんだってきっとそう思ってると思うけど」
手に持っていた水と携帯をテーブルに置き、俺は美咲の横に寝転び天井を見上げた。
「…だと、いいけど」
「他に何かあんの?」
何が不満?
何の迷い?
いっそのこと、全部吐き出せよ。
そのほうがずっと楽だろ?
「…ごめん、ね」
少しの間を置いてポツリと落ちた美咲の小さな声。
「何が?」
「色々と。お金…翔から借りたお金いっぱい残ってるし。なんか返すよって言っときながら返せないって言うか、もう返していく自信がない」
「……」
「今まで働く事が必死で頑張ってきたけど何かもう…それさえも疲れたって感じで」
ずっとその気持ちを心ん中に閉じ込めて来てたのだろうか。
俺からしたらどうでもいい事。
でもそのどうでもいい事が美咲にとったら大事な事なのかもしれない。
なんでそんなに頑張る必要がある?
もう頑張らなくていい。