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ホスト業界に入ってもう5年。
特になりたいって入った訳じゃない。
16で母親が亡くなって、高校を中退しトビの仕事に進んだもの、生活は苦しく生きて行くのに必死だった。
小さい頃に両親は離婚し親父の顔なんて何も知らないまま。
だからと言って会いたいとも見たいともなんとも思わない。
周りが言う普通の生活ってもんがイマイチ俺には分かんなくて、それが楽しいのか幸せなのかもわかんねぇ。
ただ。
一人になった俺に残されたのは、これから生活していく試練のみだった。
初めてトビの仕事をして、その給料の安さに俺は憂鬱を覚え、18の時に入ったのは何も知らないこのホストの世界だった。
憧れとか、好きだからとかそんなもんじゃない。
ただ、お金が欲しいだけだった。
手っ取り早く金が稼げるとそう思った。
適当な言葉を並べては女を喜ばせる事が好きだとは言えない。
正直、呆れるし面倒だと思う事もしばしばあった。
5年経った今、何が変わったかと言えば、分からない。
でも、すがり着いて来る女に安らぎを求めてたのかも知れない。
穴の空いた心に誰かが入ってくれれば、良かったのかも知れない。
「…あ、楓さん。こんな所にいたんすか?流星さんが遅いって言ってますよ」
不意に聞こえた声に視線を向けると、入って来て1年になろうとするアキが安堵のため息をついた。