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「どした?」
「指名入ってます。だから流星さんが早く来いって言ってます」
「すぐ行く」
「待ってま―――…あ、」
言葉止めたかと思うと、アキは行きかう人通りの中に視線を向けた。
なんだ?と言わんばかりに俺もその方向に視線を向ける。
溢れかえる人ばかりで、何があるって訳でもない。
再びアキに視線を送るとアキは一点を集中させるようにと、不思議そうに見つめてた。
「どした?」
「あの人、どこの店っすかね?」
「え?」
「たまに見るんすよ」
「へー…」
アキが言う女は今、まさに目の前を通り過ぎて行った女だろう。
通り過ぎた瞬間も、アキが目で追い続けていたから。
「すげー綺麗ですよね。俺とタメくらいっすかね?綺麗なお姉さんって感じ。てか、楓さんが好きそうなタイプじゃないっすか?」
頬を緩めるアキに何気なく一息を吐き出した。
「お前、俺の好み知らねーだろ」
「だって楓さん、美人好きっすよね?」
「それ、お前だろうが」
「俺は好きっすね」
ハハッと笑いながら店の中に入って行くアキから視線をもう一度その女の背後に目を向ける。
長い茶色の髪を緩く巻いた女は誰がどう見てもスタイルがよく綺麗な顔だった。
もちろんこんな時間に居るのだろうから、夜の店で働く女なんだろうと。
だけど、夜の店で働くにはもったいないような女だった。
だからといって、興味が湧き出るほどの女でもない。
正直、俺の好みなんか自分でも分からない。
美人が好きか、嫌いかなんてのもわからない。
自分から好きになる女なんか居るはずがない。
適当に遊んでくれりゃ、それだけで十分。
それは昔と今も変わらない。