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「あ、あんたねぇ馬鹿にしてんの?」
「してねぇけど。ところで何してんの?」
俺に用があるのは、あの事しかないだろう。
だけど平然を装って立ち上がった俺は空を仰いで伸びをし、美咲を見下ろした。
と同時に勢いよく立った美咲の眉間に皺が寄る。
そう、一瞬にして。
「何してんのはこっちの台詞だよ!!あんたこそ何してんだよ!何でスーツなんか着てんだよ!!」
張り叫ぶ声すら、もう気にならなかった。
それよりか今頃気づいたのかよ。と思うと改めてため息が出る。
言ってないにしても気づくの遅せぇだろ。
「何って仕事」
「はぁ!?意味分かんねぇ事言ってんじゃねぇよ!あんたトビじゃねぇのかよ!!」
更に大声を出す美咲の所為で、周りの視線が一気にこっちに向かってくるのが分かる。
その周囲の視線に気づいたのか、美咲は一瞬にして顔を顰め、そして俺を睨んだ。
「嘘はついてねぇよ。ってか相変わらず、みぃちゃんは口悪いよな」
思った通りの言葉を吐き出し、俺は美咲の頭をポンポンと軽く撫でるように叩いて口角を上げる。
すると美咲の表情が少し緩んだのが分かった。
ほんと、綺麗な顔してんなコイツ。
ミカが言ってたように店には高嶺の花みたいな女は沢山いる。
だけどやっぱりコイツは違うような気がした。
「つーか、よくここが分かったな」
「前、見たから…」
「へー…。んで何?」
ここへ来た事も忘れたんだろうか。
思い出したかのように美咲はハッとし、鞄の中から取り出した白い封筒を俺の胸に強く押しつけた。