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タバコを咥えたままポケットに手を突っ込む。
取り出したそれは今の今まで切られた携帯。
真っ黒な画面を見つめるも、その画面に明かりを灯す事はなかった。
今、店がどんな状態などしりたくもない。
知った所で、今は何も出来ない。
考えた事をかき消すように、視線を美咲へと送る。
さっきまで座っていた位置に居なく、目で探してると美咲はキッチンへと移動してた。
手元までは見えないが、洗ってるに違いないだろう。
「俺がやっから置いとけよ」
顔を上げた美咲の口が微かに動くも、その言った言葉すら俺に届いてはない。
まぁ、きっと、自分でやるって言ってんのか分かんねぇけど、美咲はもう一度自分の手元に視線を落とした。
短くなったタバコを数回吸って、煙を吐きながら灰皿に押し潰す。
中に入ると同時に美咲もソファーへと近づく。
腰を下ろす俺とは違い、未だ呆然と立ち尽くす美咲に、不思議そうに見上げた。
揺れる美咲の瞳とかち合い、それはすぐに逸らされる。
さっきと同じ位置に座り込んだ美咲に、「どうした?」俯く美咲に声を出した。
「…すから」
「え?」
「お金はちゃんと返すから」
消えそうなくらい小さな声。
少しでも雑音があると消えてしまいそうな小さな声で美咲は呟く。
つか、もうその話はいいんだけどな。
内心、そう思っていても言えず。
「いらねぇよ」
思わずツンとした口調で返してしまった。