Domain

「…はい」

「みぃちゃん?」

「うん」

「まだ部屋に居る?」

「うん」

「あーじゃあ、良かった。あのさ、言い忘れてたんだけど下駄箱の上に金あんだ。それ電車代と駅までのタクシー代に使って。タクシーの番号と一緒に置いてるから」

「は?」

「送れなくてごめんな。俺が勝手に連れて来たのに…、って事で置いてっから使えよ。じゃあな」

「えっ、ちょっ…、」


戸惑い気味の声を出す美咲との電話を俺は一方的に切る。

その切った画面にもう一度、美咲の番号を映し出し、どこに登録しようか悩んでた時、


「翔さん、タバコ一本下さい」

「は?」


また現れたタケルに眉が寄る。


「もう吸っちまってないっす」

「他の奴に貰えよ」

「だって銘柄違うんすよ」

「え、蓮斗は?蓮斗いんだろ」

「蓮斗さん、違う現場に行きました」

「まじか、」

「だから翔さんしかいねーっす」

「お前なぁ…。もうそれやるから」


ポケットから取り出したタバコは一本しか吸ってねーから新しい。

それをタケルに差し出すと、「この恩は忘れません」タバコの箱に向かって礼をしやがった。


「あー、そだ。タケルの登録消すわ」


携帯の画面を見つめながら、俺は呟く。

< 96 / 351 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop