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「…はい」
「みぃちゃん?」
「うん」
「まだ部屋に居る?」
「うん」
「あーじゃあ、良かった。あのさ、言い忘れてたんだけど下駄箱の上に金あんだ。それ電車代と駅までのタクシー代に使って。タクシーの番号と一緒に置いてるから」
「は?」
「送れなくてごめんな。俺が勝手に連れて来たのに…、って事で置いてっから使えよ。じゃあな」
「えっ、ちょっ…、」
戸惑い気味の声を出す美咲との電話を俺は一方的に切る。
その切った画面にもう一度、美咲の番号を映し出し、どこに登録しようか悩んでた時、
「翔さん、タバコ一本下さい」
「は?」
また現れたタケルに眉が寄る。
「もう吸っちまってないっす」
「他の奴に貰えよ」
「だって銘柄違うんすよ」
「え、蓮斗は?蓮斗いんだろ」
「蓮斗さん、違う現場に行きました」
「まじか、」
「だから翔さんしかいねーっす」
「お前なぁ…。もうそれやるから」
ポケットから取り出したタバコは一本しか吸ってねーから新しい。
それをタケルに差し出すと、「この恩は忘れません」タバコの箱に向かって礼をしやがった。
「あー、そだ。タケルの登録消すわ」
携帯の画面を見つめながら、俺は呟く。