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車に乗り込んで、タバコを咥えたまま腕時計に視線を送る。
…17時20分。
いつもよりかなり早い時間帯。
この時間だったら流星は居るだろうと、俺は車を走らせた。
着いて車を停めて店に入ると、案の定、流星がオープン前の準備に取り掛かっている。
「…はよ」
とりあえず挨拶をするものの、その声に反応した流星は不敵に笑みを漏らした。
「子猫ちゃんどうだった?」
「あー…」
ポンポンと俺の肩を叩く流星に、語尾を伸ばす。
その笑みが、俺からすれば楽しそうにしか見えなかった。
「彩斗も絶賛してたよ。綺麗な女だったって」
「彩斗?」
「店の前でお前の事、聞いてきたのが彩斗だったから」
「あー…なるほど」
「まぁ、他の奴は知らないから安心しろよ。…口止め料よろしくな」
「口止め料?」
「当たり前だろ。お前が居ねぇだけでこんな面倒な事になるとは思わなかったしよ」
「それは悪かった。つか、お前…ジムってなんだよ」
思い出したことを口にすると流星はクスクス笑みを漏らした。
「いやいや、だから大変だったっての。朝の仕事っつっても絶対、お前言うなよってなるだろ?んじゃあジムで」
「だから意味分かんねーって、」
「体力仕事=ジムってな感じになってもた」
「ややこしいこと言うなよ」
今まで隠してきたけど、これならまだもう一つの仕事って言われてる方がよっぽどマシ。
お陰で散々な目にあったのは確かで、これからもっと散々な目に合うだろうと思えば、苦痛を感じる。
自業自得とは言え、参った感に襲われる。