君桜
「誰……」


夢じゃない。

夢じゃないから?


そのひとは、ゆっくりとさくらに近づいてきて、ついに、花びらに隠されていた顔が、あらわになった。


「え……、アタシ……?」


さくらは思わず呟く。


だけど、違う。

そのひとは、違う。


……さくらによく似た、さくらじゃないひと。


「やっと、見つけた。──さくら」

そのひとは、少し寂しそうに微笑んだ。


誰だったっけ……。

思い出せず、ただ戸惑うさくらを、そのひとはそっと抱きしめた。

その瞬間、何も分からなくなる。


代わりにさくらの中で、ぱぁっと桜色の情景が浮かんだ。

いつか見た、記憶の底に封印していた、“あのとき”──。
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