君桜
…………
あれは、いくつのときだったろう?
離婚し、さくらと一緒に暮らすこととなった母が借金の保証人をしていた親友に逃げられ、毎日ヤクザっぽい人に電話やら訪問やらをされ、やむなく夜逃げした、
そんな、慌ただしくてわけがわからなくて大変な年。
……それでも、お祝いしてくれるって言ったのに。
お仕事だってわかっていても、1人きりの誕生日は寂しかった。
そんな幼いさくらの足は、知らず知らずのうちに前の家に向かっていた。
記憶を頼りに電車を乗り継ぎ、ようやくたどり着いて、だけど中に入ることは出来ず、立ち尽くしていたさくらの隣を、ふいに風が吹き抜けた。
大型トラックが、さくらのわきを走り去っていったところだった。
それはスピードを落とすことなくすぐ先の角を曲がり、
「キャ──…!」
ひとりの少女が、宙を舞った。
こんなことあっていいわけない、これはきっと悪い夢──…
さくらはぎゅっと強く、目を閉じた……。