君桜
どうやって家に帰ったんだろう?
気付いたときにはもう、さくらの誕生日は終わっていて。
母が何か落ち着きなく、いつもと違う感じだったのは覚えている。
だけど、さくらは高熱を出していて、それがどうしてかなんて考えられなかった。
熱が下がり日常が戻った頃には、あの出来事は夢、ほんとうじゃあないって、そう思えるような気になっていた。
生々しい血痕、少女の悲痛な叫びを受け入れられるほど、さくらの心はおとなじゃなかったから。
やがてそれは記憶の波に呑まれていって、
忘れていったんだ──…
忘れては、いけないのに。