君桜
「さくら。
私のこの世への未練は、あなたに逢うことだった……
それを果たしたから、私は逝かなきゃならない。
だけど、よかった……
さくらに逢えて……」
「えっ? 姉ちゃん……!?」
楓の言葉が、最期の言葉のような気がして。
さくらはどこか不安げに呼び掛ける。
そんなさくらに、楓は小さなウサギのぬいぐるみを抱かせて、
「さくら、欲しがってたでしょ」
そう言って、いたずらっぽく笑って見せた。
「だけど……っ」
さくらの声に、楓はちょっと首を振って、いいの、というように小さく微笑んだ。
ウサギのぬいぐるみ、それは楓が小さい頃、とても気に入って大事にしてた物。
まさかくれるなんて、思わなかった。
……大切にする。
そう誓った、さくらの心の声を聞いたかのように、楓は最期にさくらを抱き締めた。まるで包み込むように。
「お誕生日おめでとう、さくら……」